夢に出てきたものを数字に置きかえて、くじを買う。この習わしは日本だけのものではありません。イタリアや中国、タイ、ベトナム、キューバにも、昔から同じような習わしがあります。
しかも国ごとに、夢と番号の対応表まで作られてきました。
この記事では、
- ヨーロッパの夢の本
- 中国のくじ「花会」と、それが渡った国
- 日本の語呂合わせ
- なぜ夢を数字にしたのか
を、それぞれの国の資料から見ていきます。
この記事のポイント
- 夢を番号にする表は、ヨーロッパと中国で別々に生まれた
- 中国のくじは移民と一緒に、タイやベトナム、キューバへ渡った
- 番号にする前から、どこにも古い夢占いの本があった
夢を数字にするとは
やり方は、どの国もよく似ています。夢に出た物や人を、表で引いて番号にします。辞書のような使い方です。
- イタリア・ナポリ48は「話す死者」。亡くなった人が夢に出てきたら48
- キューバ2は「蝶」。蝶の夢を見たら2
- ベトナム35は「ヤギ」。ヤギの夢を見たら35
表のもとは、大きく2つあります。ヨーロッパのくじ「Lotto(ロット)」と、中国のくじ「花会(ホアホイ)」です。
ヨーロッパの夢の本
Lotto と夢
今の Lotto は、1〜90の数字から当たりの数字を引くくじです。16世紀のイタリアのジェノヴァで生まれました。議員の補充をくじで選ぶ決まりがあり、その結果に市民が賭けたのが始まりです。
このくじがイタリアの各地や外国に広まると、夢を1〜90の番号にする本が次々に出ました。
- オーストリア1751年に国のくじを始めると、数字の選び方の本がどっと出ました
90の数字それぞれに動物や物、行いが結びつけられ、壁に貼る対応表も作られています - ローマとヴェネツィア1754年に出た夢の本は、80年以上も版を重ねました
夢に出る物をあいうえお順のように並べ、それぞれに番号。ローマのくじでは、犬は17、溺れた人は88
ナポリのスモルフィア
その中で、今もよく知られているのが、ナポリの「スモルフィア」です。口で伝えられてきたものが、のちに本になりました。
イタリアのロトの公式サイトも、スモルフィアの1〜90の表を載せています。
| 番号 | 意味 |
|---|---|
| 3 | 子猫 |
| 4 | 豚 |
| 11 | 小さなネズミ |
| 47 | 死者 |
| 48 | 話す死者 |
| 90 | 恐れ |
同じ夢でも、中身で番号が変わります。公式サイトの例では、恋の夢は7、片思いなら29です。
イタリアからの移民が多いアルゼンチンにも、夢を0〜99にする表があり、新聞に載っています。
夢と数字を結びつけたのは
スモルフィアをだれが作ったのかは分かっていません。ユダヤ教の神秘思想カバラの、文字を数に置きかえる考え方がもとだという説が有力です。名前は、ギリシャ神話の夢の神モルペウスから来たという説があります。
中国の「花会」
36の札を当てるくじ
中国の花会は、36人の人物の名前から1つを当てるくじです。清の時代の中ごろから、福建、広東、上海、天津などで流行しました。当たると賭け金の約30倍。地域によっては、人物の代わりに動物や地名を使いました。
1916年に出た清の時代の逸話集『清稗類鈔(せいはいるいしょう)』は、上海の花会を、広州・潮州・寧波の人が始めたと書いています。
夢を札に読みかえる
花会でも、当てる手がかりにしたのは夢でした。
1933年に出た上海の随筆『上海鱗爪(しゃんはいりんそう)』には、こんな様子が書かれています。
- 神仏に祈り、夢でお告げを待つ
- 野宿をして、棺のそばで眠る人もいる
- 露店でこっそり売られる指南書に、夢の読み方が付いている
- 夢を見たら、その本で細かく調べてから賭ける
1885年には、シンガポールの学会誌が、花会の夢の本を紹介しています。36人はそれぞれ前世が動物で、1人ずつ「この夢を見たらこの札」と書かれていました。
- 前世が猿の大臣首をつる人、3つの幽霊、3つの星、芸をする猿などの夢
- 筆頭の王王の即位、お金、処刑の夢
花会の始まり
花会がいつ始まったかは、資料によってばらばらです。明の初め、清の道光年間(1821〜1850年)の浙江、などの説があります。1885年の夢の本は、後漢の時代に発明されたと書いています。
花会が渡った国
花会は、中国系の移民と一緒に海を渡りました。1885年の論文も、マレー半島の英領の港町、ビルマ、シャム(今のタイ)など、中国の人が住みつく所ならどこでも行われていると書いています。
タイ
1835年、中国の人ホンが国王に「中国のようにくじを開けば、人々が土に埋めたお金が出てくる」と申し出て、タイで初めてのくじが開かれました。
札には、人物の絵、漢字の名前、前世の動物が描かれていました。タイの人は漢字が読めなかったので、タイ文字の ก、ข、ค……を順に振りました。そこから、このくじは「หวย ก.ข.(フアイ・コーコー)」と呼ばれます。中国では34人、タイで2人足して36人でした。
今のタイでも、夢から数字を出すのはよく知られた方法です。
昔のタイの当たりの探し方
1924年にタイの学会で読まれた論文は、当時の当たりの探し方を書いています。くじの胴元に聞く、橋のたもとの木の幹をこする、変わったお坊さんの言動を読む、などです。お坊さんが寺の壁に紙の象を飾ったので、象の札に賭けた人たちが当てた、という話もあります。
ベトナム
1800年代に中国系の移民が花会を持ちこみ、ベトナムでは「36匹の賭け(Đề 36 con)」になりました。1891年の記録は、役人も学者も商人も物乞いも、みんなこれをしていると書いています。
ここでも番号は夢から選ばれました。
- ヤギの夢を見たら35
- 体の部分と36匹を結ぶ表もあり、耳の夢なら26、首の夢なら28
今のベトナムの数字くじ「số đề(ソーデー)」は、その流れをくんでいます。35がヤギなので、好色な人を「35の血」と呼ぶ言い方まで残っています。
ほかに渡った国
- フィリピン「フエテン」は、福建の言葉から名前が来た、花会の流れの数字くじです
集金係が、客の夢からラッキーナンバーを読むこともあります - キューバキューバの百科事典は、数字くじの表「チャラダ」を中国の字花(花会の別名)とし、1847年からの中国系の労働者と一緒に広まったと書いています
はじめは36、今は1〜100。蝶の夢を見たら2 - ジャマイカ中国系の移民が1〜36のくじを持ちこみました
ジャマイカの記事は、今の公営くじをその新しい形と書いています。番号ごとに意味があり、夢で選ぶ人もいるそうです
同じ動物が並ぶ
シンガポール(1885年)、タイ(1924年)、キューバの表を並べると、同じ動物がいくつも出てきます。シンガポールとタイは、札の名前までよく似ています。
アメリカとブラジル
ヨーロッパと中国のほかにも、夢を番号にする表があります。
- アメリカ19世紀の半ばごろから、非合法の数字くじ用の「夢の本」が売られました
もとは英国の夢占いの本と同じような本でしたが、くじのために言葉と番号だけを並べた本に変わりました。1887年の本では、ニューヨークで蟻の夢なら7、20、49 - ブラジル「ジョゴ・ド・ビッショ」は、1892年にリオデジャネイロの動物園で始まった、25の動物に番号を割り当てたくじです
どの動物にするかには、夢にまつわる言い伝えがたくさんあります
ブラジルの「花のくじ」
ブラジルのくじ業界のニュースサイトは、ジョゴ・ド・ビッショを考えたのは動物園の持ち主の部下だったメキシコ人で、その人がリオで開いていた「花のくじ」を動物に置きかえたものだと伝えています。中国の花会と名前は同じですが、つながりを示す資料は見つかっていません。
日本は語呂合わせ
日本にも、江戸時代から「富くじ」がありました。ただ、富くじのために夢を番号にする対応表があったという資料は、見つかりませんでした。日本で知られているのは、語呂合わせです。
落語の「御慶(ぎょけい)」では、富くじに夢中の八五郎が、梯子の上に鶴がとまっている夢を見ます。
- 鶴は千年で「千」
- 梯子(はしご)で「八四五」
こうして「鶴の千八百四十五番」の札を買いに行きます。表で引くのではなく、夢を言葉の音で数字に読みかえるやり方です。
推測
なぜ夢を数字に
ここからは推測です。国ごとの資料を並べると、共通する点が見えてきます。
もとは夢占いの本
夢占いの本は、くじよりずっと古くからあります。
- 中国殷の時代の甲骨文に、夢を占った記録があります
敦煌で見つかった唐の時代の写本『新集周公解夢書』は、周公の名を借りた夢占いの本の、今に残るいちばん古いまとまった写本です - ヨーロッパ2世紀のギリシャのアルテミドロスの『夢判断の書』が、古代の夢の本で完全に残る唯一のものです
イタリアのロトの公式サイトも、スモルフィアの根をここに見る説を紹介しています
ただ、どちらにも番号は付いていませんでした。番号を選ぶくじが入ってきたとき、中国でもヨーロッパでもアメリカでも、夢占いの本がくじの番号の本に作りかえられたように見えます。
夢はお告げ
夢を、亡くなった人や神仏からの知らせと見る考え方も共通しています。
- ナポリの48は「話す死者」
- 上海では、棺のそばで眠ってお告げを待つ人がいた
- タイでは、祠に供え物をして、夢で数字を授かるのを待つ人がいる
絵で引ける
花会の札には人物と動物の絵が描かれ、字の読めない人でも選べるようになっていました。スモルフィアの本にも、同じ理由で挿絵が入っています。だれでも引けたことが、広まった理由の一つかもしれません。
自分の夢を数字に
自分の夢を数字にするなら、どの国の表を使うかで番号が変わります。
| 出たもの | ナポリ | キューバ | ベトナム |
|---|---|---|---|
| 豚 | 4 | 32 | 7 |
| 犬 | ― | 15 | 14 |
| ウナギ | 32 | 26 | ― |
| エビ | ― | 30 | 31 |
| 死者 | 47 | 8 | ― |
ベトナムは、昔の「36匹の賭け」と、その後の「40匹の賭け」の番号です。同じ豚の夢でも、4にも32にも7にもなります。どの表を使うかは、自分の好みで選んでかまいません。
イタリアのロトの公式サイトは、夢と番号に当たりやすさとの関係はなく、番号選びを楽しむための道具だと書いています。
番号にする前に、夢そのものが気になることもあります。同じ夢をくり返し見る、内容が頭から離れない。そんなときは、数字よりも夢の意味を知りたくなるかもしれません。
まとめ
- 夢を番号にする表:夢に出た物を表で引いて番号にする形は、ナポリ、キューバ、ベトナムなど各国でよく似ています
- ヨーロッパの流れ:16世紀のジェノヴァの Lotto が広まった先で夢の本が生まれ、ナポリのスモルフィアが今も使われています
- 中国の流れ:36の札のくじ「花会」が、中国系の移民と一緒にタイ、ベトナム、フィリピン、キューバ、ジャマイカへ渡りました
- 日本は語呂合わせ:落語「御慶」では、鶴と梯子の夢を「千八百四十五番」に読みかえます
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